炭酸キーパーがまさかの変身!ペットボトルの中に「本物の雲」を作る裏ワザ(ソーダフレッシュ)
サイエンストレーナーの桑子研です。毎日が実験。
部活の後や暑い日に飲むシュワシュワの炭酸飲料、最高においしいですよね!でも、一度開けたペットボトルを冷蔵庫に戻して、翌日飲んだら「…あれ?ただの甘い水だ」とガッカリした経験、誰もがあるはずです。
そんな悲しい事態を防ぐために便利なのが、「ソーダフレッシュ」や「シュポシュポくん」と呼ばれるアイデア商品。ペットボトルの口に取りつけてポンプで空気を送り込み、ボトル内の圧力を高めることで、炭酸ガスが水から逃げ出すのを防いでくれる優れモノです。
ソーダフレッシュ(amazon)
でも実はこの器具、ただ炭酸を守るだけの日用品ではありません。なんと、手元でペットボトルの中に「雲」を作り出せる、強力な科学実験マシンになることをご存知でしたか?今日は、この「シュポシュポ」がなぜ熱を生み出し、そしてどうやって雲を作るのか。その背後にあるダイナミックな科学の秘密に迫ります。
「シュポシュポ」の正体は? — 圧力が熱に変わる瞬間
まず、この器具を使ってペットボトルに空気を送り込む(加圧する)実験をしてみましょう。ペットボトルに示温テープを入れて、一生懸命シュポシュポしてからペットボトルを触ってみると、温かくなっているのが分かります。なぜ、ただ空気を入れただけで温度が上がるのでしょうか?

それは、空気(分子)を無理やり狭い空間に押し込んでいるからです。イメージしやすいように、満員電車を想像してみてください。ドアが閉まるギリギリで、駅員さんが外からさらに人を押し込む(=加圧する)とどうなるでしょうか? 中の人はぎゅうぎゅうになり、お互いにぶつかり合いますよね。
あれと全く同じことがボトルの中で起きています。ポンプで空気を押し込むという「仕事」が、空気の分子の運動を激しくさせ、「熱」というエネルギーに変わるのです。これを物理の世界では「断熱圧縮(だんねつあっしゅく)」と呼びます。炭酸を守るための作業で、実は物理の重要な法則である「圧力と温度の関係」を肌で感じることができるのです。
ペットボトルの中に“雲”を作る実験!
さて、いよいよ本題です。先ほどの「断熱圧縮」とは逆の現象、「断熱膨張(だんねつぼうちょう)」を利用して、手元に雲を作ってみましょう。空気が急激に広がるとき、温度はどう変化するのかに注目です。
準備物:
- 空のペットボトル(炭酸対応の丈夫なもの、500ml推奨)
- ソーダフレッシュ(加圧器)
- 水(少量)
- 線香(または蚊取り線香)※火の取り扱いに注意!
実験①:水だけでやってみる(地味な結果…?)
まずは、水と空気だけで実験してみます。
- ペットボトルに少量の水を入れて軽く振り、中を湿らせてから水を捨てます。(これでボトル内の湿度を100%近くに上げます)
- ソーダフレッシュを取り付け、手応えが硬くなるまで力いっぱい加圧します。(シュポシュポ!)
- この時、ペットボトル内部の温度が上がっています。(暖かい空気は、たくさんの水蒸気(気体)を含むことができる状態です)
- その状態でロックを外し、一気に蓋を開けて減圧します!「ボンッ!」
- → 空気が一気に膨張し、温度が急激に下がります!
- → 急に冷やされた空気は水蒸気を抱えきれなくなり(飽和)、あふれた水蒸気が水に戻って、わずかに曇りが発生します。

結果はどうでしたか? 肉眼では「あれ?一瞬ちょっと白くなったかも…?」という程度で、正直なところ、やや地味な印象だったのではないでしょうか。実は、雲を作るには「水蒸気」と「温度変化」だけでは足りないのです。
実験②:線香の煙を入れてみる(本物の雲、出現!)
次に、魔法の材料を加えます。ペットボトル内に線香の煙をほんの少し(一瞬でOK!)入れてから、先ほどと全く同じ手順(①〜⑤)で実験を行ってみましょう。
すると……

→ 今度はボトルの中が真っ白になり、はっきりと「雲」が発生しました!
条件は「煙があるかないか」だけ。なぜこれほど劇的な違いが生まれたのでしょうか? 答えは、線香の煙が「凝結核(ぎょうけつかく)」という芯の役割を果たしたからです。実験①では、冷やされて行き場を失った水蒸気(気体)が「水に戻りたいけど、きっかけがないなあ…」と迷っている状態でした。しかし実験②では、煙の小さな粒子(エアロゾル)という「集まる場所」が提供されたため、水蒸気が一斉にその粒子に飛びつき、目に見える「水の粒(雲)」へと変化(凝結)できたのです。
小さなボトルは、地球の空と同じ
この実験は、ただの「おもしろマジック」ではありません。生徒たちにとって、地球規模の気象現象を理解する深い学びにつながります。
- 「雲の正体」がわかる 雲はフワフワした「水蒸気(気体)」だと思われがちですが、実は「水や氷の小さな粒(液体・固体)」の集まりだということが体感できます。
- 「温度・圧力と天気の仕組み」がわかる 太陽に温められた空気が上昇して膨張(減圧)すると、温度が下がって雲ができる。このボトルの中で起きていることは、まさに上空で起きている雲の発生メカニズムそのものです。
- 「目に見えないもの」の大切さに気づく そして最も感動的なのが、「空気中の目に見えないチリ(エアロゾル)が重要である」という発見です。実際の空にも、目には見えませんが細かなチリやホコリ、海の塩の粒などが漂っており、それらが「核」とならなければ、空に雲は浮かばないのです。
炭酸の気が抜けるのを防ぐための身近な道具が、実は地球の空を再現するミニチュア装置になる。 「一見関係なさそうな事柄がつながっている」ことに気づくことこそ、理科を学ぶ本当の面白さなのです。ぜひご家庭でも試してみてくださいね。
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